土と炎の子どもたち [旅の断片]
長いこと、恋焦がれ続けたのは、土と炎が織りなすこの風景。
ここは、世界自然遺産の玄関口、斜里町・峰浜にある斜里窯の登り窯。
陶芸家、中村二夫さんが自ら築き、26年間、火を入れ続けた窯は、
3月12日からの火入れを最後にその役目を終えた。
この春には、家族の歴史を刻み込んだ登り窯が解体され、
夏ごろまでに新しい窯を築くのだという。
窯に火が入るのは、年に3回ほど。時々、見においでと誘われていたのに、
500km離れたこの地をなかなか訪ねることができなかった。
いつも、訪ねた時には登り窯はしんと静まり返り、押し黙ったまま。
いつか、本来の仕事をしているときに見たいと思い続けて、
気づけば10数年の歳月が流れていた。そして、ようやく、最後の最後、
いつもは暗い窯場が紅蓮の炎に照らされる光景を見ることができた。
斜里窯の登り窯は、2日間にわたって火が入れられる。
窯の大口に最初の火を放ってから、一晩、夜通し薪をくべ続ける。
内部に十分に熱が回った翌朝から、土地の傾斜にそって
しつらえた3つの袋(部屋)へ直接、小割にした薪を投げ入れていく。
下からくべられた薪は瞬く間に燃え上がり、炎と熱風、煙が
整然と並べられた土の塊を通り抜けていく。
窯の中の温度は、ピーク時には灰をも溶かす1300℃を超えるという。
その色は、紅というよりも青みを帯びた白金。
燃え盛る炎が隙間という隙間から噴き出し、あたりを照らす。
その妖しくしなやかな動きはいつまで眺めていても飽きることがない。
窯焚きは、中村さんと2人の子息が交代で行っている。
いたって古典的な窯には、もちろんコンピュータ制御装置などあるはずもなく、
炎を見ながら、職人の勘だけを頼りに温度を調整する全手動式だ。
いくら、親子でコツコツ粘土をこねて、美しくかたちづくっても、
最後の焼き加減がまずければ、売り物にはならない。4ヶ月近くの
歳月も、炎の機嫌次第で無駄になるのだ。
激しく燃え盛る炎の前で阿吽の呼吸で淡々と繰り返される作業は、
どこか修道者の祈りの姿にも似ていた。
窯焚きも終盤戦に入ると、
最上部の排煙口からも駆け上ってきた炎が噴き出す。
黒煙をもうもうと上げながら、激しく炎を躍らせる登り窯は、
薄闇にのたうつ龍のようにも見えてくる。その灼熱の腹には、
約7000点の作品がトロトロとまどろんでいる。
往復1,000kmの日帰りをしても、見たかったもの。
それは、紅蓮の龍が抱いていた土と炎の結晶たち。
当初の予定では、窯焚きだけを見せてもらうはずだったが、
窯焚きが終わった翌々日の窯出しにも立ち会わなければ、
ミッションは完了しない、そんな気持ちになってしまったのだ。
まだ、熱気を宿した窯の中から次々と、この春の新作が
引き出される光景は、圧巻だ。写真、上・下はその一部。
斜里窯のうつわについては、
昨年の10月にも一度、記事にしているので、下記をご参照いただきたい。
http://morihana-2nd.blog.so-net.ne.jp/2008-10-23
ここで、関東圏の方々に朗報。3月19日から25日までの間、
千葉・船橋駅前にある船橋東武6階のイベントプラザで開催されている
「北海道物産展」に斜里窯が出展。売り場には、窯焚きで汗を流していた
中村家のご長男、しんさんが立っている。彼は、窯出しをすべて見届けることなく、
船橋へと旅立っていったのである。明日からの3連休、とりたてて予定のない方は
電車でぶらりと船橋へ出かけ、できたての作品を手にとって、眺めてみてはいかがだろう。
そして、温かな土肌に触れたなら、この紅く燃える窯の炎を思い浮かべてほしい。
明日からの連休が、皆さまにとって楽しく、充実した休暇になりますように。
1枚目の糸引くような炎が凄いですね!!!
火入れの瞬間、窯出しの作業に立ち会えるなんて羨ましいです☆
緊張と興奮でドキドキするだろうなぁ♪
お役目を終えた窯から新しい窯へ世代交代して。
また新たな歴史の始まりですね(._.)φ
しかし、このうつわ群、めちゃめちゃ素敵☆ 時間あったら見に行きたいですー。
by ひろころ (2009-03-19 18:02)
常滑の方で急須の制作を拝見したことがありますが、
本当に迫力満点、すごいの一言☆
未だにその感動を覚えております!
by お茶屋 (2009-03-19 18:35)
芸術作品が誕生していますね。
緊張が漂います~
船橋、行ってみてきます。
by green_blue_sky (2009-03-19 23:26)
往復1000㎞かけて、MORIHANAさんが向かった場所ですね。
なんといったらいいか。。。
船橋にいってみたくなりました。
少し遠いけど、1000㎞はないから。
by 柴犬陸 (2009-03-19 23:57)
登り窯での作陶は、仰るように祈りにも似た雰囲気がありますね。
26年も使い続けて窯は、手の内に入っていると言って良いのでしょうけれど、
それを壊して新しい窯を作るのは大変な冒険です。
これはわたしだって、どうやっても窯出しを見たいですねえ。
最後の写真、一番手前のお皿、良いですねえ。
by ナツパパ (2009-03-20 00:14)
ものづくりの現場のピンと張りつめた緊張感が伝わってきました。
完成した器の数々、控え目ながらしっかり主張を持っている…そんな雰囲気がありますね。美しいです!
船橋は我が家からだとアクセスが不便で…でもMORIHANAさんの往復距離に比べれば大したことはないですね~^^;
by めりっさ (2009-03-20 01:56)
素晴らしいですね!!
残念ながら仕事で船橋には行けません...
落ち着いたら陶芸しに行こう!!
by uran (2009-03-20 03:13)
おはようございます。
すごい炎ですね~!!
この炎を見てるとどんな作品が出来上がってくるのか
ワクワクしました。
昨年に陶芸体験しましたが、急須ととっくりは難しいらしく
とっくり100個作ったら急須に挑戦してもいいよと言われました(笑)
そらまめはにゃんずの器で充分ですが。
いい色のお茶碗ですね~。
ごはんがもっと美味しくなるだろうなぁ・・・
by そらまめ (2009-03-20 07:33)
こんにちは。
登り釜、迫力がありますね♪
ほんの少しの温度の違いでも作品のイメージが変わってしまうもの!
この炎のちょっとした違いを経験と勘で焼き上げられるんですね♪
by kumimin (2009-03-20 10:17)
すごい火の色……うっとり
船橋、行きたいなぁ
チビいるし連れて行ってくれないだろうなぁ(T^T)
by ユキ (2009-03-20 12:43)
炎って怖いものでもあるのに
なぜこうも魅力的でもあるんでしょうね。
噴火口から流れるマグマにも
同じ胸の高鳴りを覚えます。
写真のお茶碗、手にもったらどんな感じかなぁ。
平皿も煮物よし、魚よし、
なんでもひきたててくれそうなよい器ですね♪
by ヤヨ (2009-03-20 14:52)
登り窯、やっぱり凄い迫力ですね。
炎の魂が作品に命を吹き込んでいる感じがします。
窯出しに立ち会うために2度往復されたのですね。
この炎を見たら、どんな作品が出てくるのか
見ないわけにはいかないですね。
下の写真のお皿が何にでも合いそうでステキです☆
by massa (2009-03-20 16:54)
熱そうだぁ。ボーボーだ。
by ふじかわ (2009-03-20 17:11)
おおお、スゴイね。
そして熱いんだろうなぁ。
炎って見てるだけで落ち着くよね。
とりあえずライターの炎見て落ち着いてみる(笑)
by axl- (2009-03-20 19:40)
MORIHANAさん、はじめまして。
massaさんのブログから時々拝見しておりました。
登り窯で焼かれた作品はやはり生命力がありますね。
ひとつひとつ表情が違うのでどこか生き物のようです。
最後の写真のお皿が私は好きです。
こちらは灰釉でしょうか?いくつも盛りたい料理が浮かんできます。
by さちぞう (2009-03-20 19:42)
登り窯、迫力のあるいい写真をありがとうございました。
陶芸の本を何冊か読んだきりでやったことはほとんどないのですが、大変な作業であることは想像つきます。
by てりー (2009-03-21 08:48)
経験と勘が勝負の世界って。
人間のチカラって、素晴らしいなぁ…
by うに (2009-03-22 00:55)
MORIHANAさんの表現力と言葉は素晴らしいですね!
これを見に行っていたのですか!確かに見る価値はありますねぇ〜!
ダッシュ村を見ているのでなんとなく感じはつかめます。
焼き物もいいですねぇ…。
by rinco (2009-03-22 01:23)
登り窯の火入れに行ったことがあります。友人の陶芸家の窯でしたが、大変な作業。でもできあがった作品を見るのが楽しみですね。
by barbie (2009-03-23 08:59)
ものすごい迫力の炎ですね。
そして出来た作品たち・・・手にとって手触りを確かめたいものばかり。
新しい窯の最初の作品も気になりますね^^
by まぐろとわさび (2009-03-24 16:09)
あ、今頃お邪魔してしまった。。。
船橋東武、行きたかったぁ。
by lotus☆ (2009-03-25 23:24)