SSブログ

キオクの欠片たち [菜果生活]

召しませ、春ビタ blog.jpg

 

 

 

春は、何色? と、聞かれたら、パッと思い浮かぶのはどんな色だろう。

ハラハラと舞い踊る桜色、萌え出したばかりの若草色、陽射しにきらめく水辺の青…。

モノトーンの風景ばかりみていた蝦夷っ子の眼に、春の色彩は饒舌だ。

 

食卓で、キッチンでひときわヴィヴィッドな光を放っているのは、

バラエティ豊かな柑橘類のオレンジ。

かつて柑橘といえば、コタツに蜜柑の冬のイメージだった。

余談だが、船で本州以南の物資が蝦夷地に運ばれていた江戸時代、

松前藩の藩主は、遠路はるばる運ばせた蜜柑を褒美として家臣に与えたとか。

生野菜にも事欠いた蝦夷地の冬に味わう蜜柑は、宝石にも勝る価値があったのだ。

そんな時代も今は太古の昔。春から初夏あたりまで北海道でも、西日本で栽培されている

珍しい柑橘類が手に入る。デコポンにたんかん、小夏、せとか、紅八朔、ざぼん…etc.

イタリアから輸入されたものしかないと思っていたブラッドオレンジさえも、

愛媛県産が店頭に並ぶ。本場・イタリアのものに比べると紅い色素の入り方が

やや控えめで、小ぶりなオレンジのように見えるが、

みずみずしく、特有の癖がほとんどないから、馴染みの無い人にも食べやすい。

 

トップ写真は、今が旬の雪の下ニンジンとブラッドオレンジのサラダ。

いつもは、ニンジンだけで作るサラダに、ちょうど野菜庫に1個だけ残っていた

ブラッドオレンジを、オレンジつながりで加えてみた。

 

二つの素材の持ち味を生かすため、

ドレッシングはEXVオリーブ油に果物に似た甘みをもつ

白バルサミコ酢、やわらかな味わいの宮古島の雪塩を合わせた。

甘みが強く、癖がない雪の下ニンジンにオレンジのジューシーさと爽やかな香り、

ほのかな酸味。それらはまるで一対の二枚貝のようにぴったりと合った。

 

人生には時に冒険が必要と先達は言う。食も、同様。

やわらかな感性を持ち、挑戦する心を持ち続けることで、

思いがけない感動、新たな美味に出会うことができるのだ。

 

 

 

鴨のロースト*春の香り blog.jpg 

 

 

鮮やかなオレンジ色のサラダと一緒に味わったのが、写真上の一皿。

鴨のロース肉のローストに、行者ニンニクとフキノトウの素揚げ、

バルサミコ酢を煮詰めて作ったソースをあしらってある。

 

鴨ロースは包丁目を入れた皮を下にし、脂を搾り出すように中火でじっくりと焼く。

途中、キッチンペーパーでフライパンにたまった脂を吸い取る。

皮から十二分に脂が出て狐色になったら、ひっくり返して弱火にし、5分ほど焼く。

表面に火が入り、うっすらと焼き色がついたら、火を止めて蓋をして、15分ほど放置。

さらにキッチンペーパーで包み、アルミホイルでもう一度包んで、休ませておく。

これだけで、ロゼ色の美しいローストが出来上がる。見た目よりも、調理は簡単だ。

  

今回は赤ワインのリクエストがあったので、バルサミコソースで洋風に。

日本酒や焼酎の酒肴にするなら、万能葱か白髪葱をたっぷりと載せ、

ポン酢と紅葉おろしで和風に仕上げる。シンプルに辛子酢醤油などで食べても。

 

これから始まる春の連休、食客を招いての食卓にもお勧めの、華ある一皿だ。

 

 

 

 キオクの欠片たち blog.jpg

   

< おまけの話 >

 

料理が引き立つようなうつわを何気なく選んで、

盛り付け、食べる直前にさくさくと撮影したのが、1枚目と2枚目の写真。

今朝、データをとり込みながら、ふとあることに気づいた。

 

1枚目の硝子の鉢は、道南・旧大野町(現北斗市)に工房を

構えていた渓流釣り好きな作家さんの手によるもので、8年ほど前に買い求めた。

春一番、シーズンを待ちかねて出掛けた

近所のお気に入りの川の色、たたずまいを写し取った

その名も「春の淵」という作品だ。

 

2枚目の大皿は、長沼町の古い農家の納屋を改造した工房で

蹴ろくろを操り、磁器のうつわを作っていた作家さんの作品。

これは15年ほど前に、仕事で工房を訪ねたときに購入したものだ。

 

どちらも、頻繁に登場するわけではないが、長く飽きずに

使っているお気に入りのうつわ。しかし、残念なことにどちらの作家さんも

所在が不明になってしまった。硝子の作家さんは

諸事情で岩手県に移住、磁器の作家さんは廃業したと人づてに聞いた。

 

上の写真、陶器の破片のような不揃いの三つ足皿も、

消息不明になったとある作家さんのキオクの形見。

「大皿を作っていたら、途中で割れちゃったんだけど、もったいないから…

非売品だったその作品をたまたま、見つけ、無理を言って

譲ってもらったのは、やはり、10年以上前のことだ。

 

 

彼らにはもう二度と会うことができない(だろう)けれど、

うつわがある限り、使うたびに、訪ねた時の工房の光景、作り手の笑顔を思い出す。

暮らしの道具であるうつわは、時として、

懐かしいキオクをよみがえらせる装置にもなる。それもまた、作家の顔が見える

うつわが隠し持った魅力、力のひとつなのだと思う。

 

 

  

 

Casa BRUTUS ( カーサ・ブルータス ) 2010年 05月号 [雑誌]

Casa BRUTUS ( カーサ・ブルータス )

2010年 05月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: マガジンハウス
  • 発売日: 2010/04/10
  • メディア: 雑誌

 

 

うつわつながりで、先日買った本も紹介。

イサム・ノグチやバーナード・リーチ、河井寛次郎、魯山人など

きら星のごとく輝く、やきものの世界のスターたちの作品から

時代の最先端を行く工芸、モダンアートまで、

さまざまな角度から紹介されている、うつわ好きにはたまらない1冊だ。

 

六本木の国立新美術館では、6月21日まで

ミヤケ・イッセイが熱心なコレクターであることでも有名な

イギリスの陶芸家、ルーシー・リーの作品展を開催。

日本の陶芸家にも多大な影響を与え続けている、

一人の女性の生き様、やきものの世界がたっぷりと楽しめる、はずだ。

GW、遠出をしない関東圏の方は、ぜひ。

 

 

明日からいよいよ、春の大型連休、GWがスタート!

我が家はドコへも行かない(行けない?)予定。

家でのんびりとTENのご機嫌を伺い、近所を散歩。そして、

季節の食材を見つけては、料理を楽しみたいと思います。

 

 

旅に出る方、近場でのんびりな方。どんな人にも心に残る

素敵な休日が訪れますように…。

 

*MORIHANA*

 


nice!(80)  コメント(25) 
共通テーマ:グルメ・料理

nice! 80

コメント 25

お茶屋

ステキな休日となりますように・・・☆
お茶屋 新茶にまみれてブレンドしてまいります♪
by お茶屋 (2010-04-28 15:34) 

MORIHANA

お茶屋さん>いつも、ありがとうございます。
GWは、新茶の季節でしたね。今年はことのほか、
寒くて霜の被害や成長不良でお茶農家さんも大変だと
報道で聞きました。ブレンドの具合も、その辺を加味して
行われるのでしょうね。今年も良い新茶ができますように。
by MORIHANA (2010-04-28 15:52) 

ぐーちゃん

ブラッドオレンジ添えの人参サラダに鴨のロースト、
とってもおしゃれです。ワインは赤ですか?
鴨のロースト、大好物ですが、長いことお目にかかっていません^^;;
先日のキャベツとさつま揚げの煮物、簡単で相棒にも好評でした。
お気に入りの器でも、作った人のことは知らずに使っていますが、
ほとんどの器のルーツがたどれるというのは、すごいことですね。
連休は、東京に行ったり帰ったりします。逆だから楽なはずですが……。
TENちゃん、おかあしゃん、おうちだって! よかったね!

by ぐーちゃん (2010-04-28 16:35) 

MORIHANA

ぐーちゃん>こんにちは、いつもコメントをありがとうございます。

この時のワインは、ボルドーの赤でした。このほかに、野生のクレソン(山採りの
市販品です)と二十日大根、チコリのサラダと、4種類のチーズが
トッピングされたピザ(業務店用市販品)を用意しました。
キャベツの煮物、気に入っていただけて良かった(^^
たっぷり食べられるので、キャベツを1玉買いしたときの定番に、ぜひ。
いろんな時代を経て、作家の顔の見えないうつわは淘汰されつつあります。
あと、骨董までは行きませんが、古い染付、印判のうつわも少々。
買ったときのこと、その店、街の雰囲気を思い出しつつ、使っています。
東京での滞在、楽しんできてくださいね。時間があったら、六本木で
ルーシー・リーを観てきてください。私も行きたいけれど、今は無理なので。
良い連休をお過ごしください。
by MORIHANA (2010-04-28 17:13) 

ひろころ

3枚目を見て、一瞬
「モリハナさん、ウツワ割っちゃったのかな(・_・;)?」と思っちゃいました(笑)
このウツワ、見るほどにかわいい♡
お料理にも冒険!必要ですよねー(^ω^)b
うちでもたまに、ふと思い付きで合せた食材が思いがけず美味しくて
感動する事があります。
ウツワの本、見かけて気になってたトコなんです。今度入手しようっと(._.)φ

おうちでのんびりもイイですね☆ 穏やかで楽しい連休になりますように。
私は近場でちょこっとお出かけ予定でーす(^^)ノ
by ひろころ (2010-04-28 18:16) 

ナツパパ

そう、器は一期一会、出会ったときがすべて...と思ってきました。
素敵な出会いが、じつはこちらの片思い、だったことも枚挙にいとまがないほどありますが、
それでも、後悔は不思議としませんねえ。
この前も、じつは銀座で一期一会...しちゃって、つい...あはは。
by ナツパパ (2010-04-28 18:29) 

masiko

今日は紹興酒の予定なんですが
ワインが飲みたくなってきた。

by masiko (2010-04-28 19:18) 

meg

春色 温かな太陽の柔らかい色。
太陽をまだ目で辛うじて見れるくらいの色。

器が...
けど、美しい。情熱なのかな
by meg (2010-04-28 19:26) 

green_blue_sky

GW、のんびり過ごしましょう~
われたものを譲ってもらたんだ、味がありますね(^▽^)
by green_blue_sky (2010-04-28 19:47) 

barbie

サラダに柑橘系の果物はマッチすることに気づいたのはいつだったでしょう(^o^) それ以来、今頃になると店頭にならぶ柑橘類を次々と試しては入れてます。お気には小夏かな。割れた食器も捨てずに・・良いアイデアですね(^_-)-☆
おとものものの馬が元気になったので西へ下ってまいります♪
by barbie (2010-04-28 20:43) 

MORIHANA

補足です。3枚目のうつわの写真ですが、
これは窯で焼く前に割れてしまったものを
作家さんの洒落っ気で、新たに裏側に三つ足を
付け足して、4枚組みの銘々皿に仕立てたものです。
本来ならば捨てるか、土に戻されるはずの未完の作を
壊れた形をそのまま生かして仕上げたところに面白さを
感じて、買ってしまいました。このうつわを見ると、その当時の
好みがどちらかというとアート志向だったことが分かります。
ほかにも、エッヂの効いたうつわを背伸びして買っては
使っていました。でも、歳を重ねるほどに用の美に
重きを置くようになり、そうしたうつわは滅多に使わなくなり、
手放したものもたくさんあります。うつわに宿るキオクのなかには、
使い手の好みの変遷、歴史もしっかりと刻まれているのです。

早々のコメント、niceをありがとうございました。
by MORIHANA (2010-04-28 21:22) 

Bianca

こんばんは☆
3枚目の陶片のお皿、素敵ですね~。すごく味わい深いです。
(もちろん、1枚目も2枚目も素敵です!)
人参・オレンジ・鴨・・・どれを組み合わせてもばっちり、
MORIHANAさんの食材合わせはいつも美味しそうです。
鴨のしっとりした脂とさっぱりした人参サラダ・・・うーん美味しそう!!
by Bianca (2010-04-28 22:05) 

teddy0905

【 人生には時に冒険が必要!
やわらかな感性を持ち、挑戦する心を持ち続けること
思いがけない感動、新たな美味に出会うことができる!】

MORIHANAさん! 詩人ですね~~!!


by teddy0905 (2010-04-28 22:14) 

阿呆市

いわゆる道具としてのソレの持つ意味としての造形美…
のめりこんだら抜けられない気がします。

果物は酸味/甘味のバランスがいいのが好き。
作られた甘さに纏われて、本来の酸味が抜けた柑橘類やベリー類は嫌いです。

酢豚のパイナップルは不可欠です^^

by 阿呆市 (2010-04-29 09:23) 

カエル

最後の器は素敵だな、どうやって作ったんだろう?って思って見てました。
作られた方も壊れてしまって、、、から思いもよらない今こうやって食を彩る食器として使われていることを知ったら、嬉しいに違いないですね。
視点をかえると、アートになる。勉強させていただきました!
by カエル (2010-04-29 12:58) 

green_blue_sky

PS
お互いに早く風邪を治しましょう。
by green_blue_sky (2010-04-29 17:04) 

kurako

春の香りのするお料理たちですね^^
ニンジンのサラダ、私も好きです。今度柑橘類を入れて作ってみます!
雪塩を使っていらっしゃるんですね。
母が島野菜と一緒によく送ってきてくれるので、私も愛用しています。

うつわ1枚1枚に、いろんな記憶が残されているのですね。
by kurako (2010-04-29 17:21) 

mai

割れたお皿、足があるんですね。
素敵な心意気。
わたしもMORIHANAさんかTENちゃんが割っちゃったんだーと思ってしまった。

ゴールデンウィーク、わたしは引きこもり予定です。
どこにも行け・・・行かない!

by mai (2010-04-29 22:10) 

green_blue_sky

別ブログにご訪問ありがとうございます。
メールでの返事をせずに(;^_^A アセアセ・・・

GWはのんびりと過ごします。
体調が悪くなると、耳の調子がおかしくなる可能性もあるので用心しています。
無理をせず、過ごします。
ブログはまだ続きます~
by green_blue_sky (2010-04-30 09:34) 

フサヲ

とっても大好きな御姉様が、お子さんの頃に飛ばした風船がミカン農園に落ちて、
それからずっと、毎年おミカンが届いているそうで、
一緒に住んでいた頃(カッコよく言うとルームシェア)は、
いつも分けて下さってました。
自身が子供の頃は、近所で八朔が採れますので、
小学校の給食で八朔が丸まま一個でることが多く、
好きなんですが、皮も自分で剥けー!(果物ナイフ付)だったので、
エラく苦労したのを覚えています。
ブラッドオレンジは、学部生の頃よく行っていた伊酒屋さんで、
「Queen Kiss」というブラッドオレンジとグレープフルーツだけ(だったと思う)の、
ノンアルコールカクテルを知ったのが最初の出会いでした( ^ ^)
by フサヲ (2010-04-30 21:24) 

penny

一年中オレンジ色が好きな、感性の乏しい私です ^^;
by penny (2010-05-01 16:29) 

ユキ

白バルサミコ酢なんてあるんですね~
知らなかった
陶片の器素敵です
by ユキ (2010-05-02 17:48) 

ます

こんにちは!
わたしもcasaの最新号持ってます。器。見れば見るほど奥が深いです…。
人参は、レーズンとレモンとオリーブオイルとあえてサラダにしたりします。
レーズンは好き嫌いが多い食べ物ですけど、私は好きなので^^
by ます (2010-05-02 21:28) 

プランツマーケット

ブラッドオレンジのしっかり目の味が人参サラダと合いそう。^^
飾りのパイナップルミントもイイ香りがしそうです。
うつわは、お料理を美味しくしてくれますね。
by プランツマーケット (2010-05-04 15:58) 

engrid

今年の風は、いつまでも鼻が、ぐずぐずすっきりしない
養生いたしましょうね、、、

雪のしたニンジンの鮮やかな色、オレンジも
いいかおりもましますのね
食卓に彩りはいいですね
なんだか何回も読み返しました
鴨ローストを ビーフのローストに応用してみようかしらとか
その時、そんないおしゃれな付け合わせは、できない、、、
クレッソンとワサビの茎とかどうかしらとか
頭の中で、レシピがぐるぐるです
by engrid (2010-05-04 17:54) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Boy Meets Girl花疲れには、まだ早い。 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。